『明日の晩、時間はあるだろうか?』 そんなメッセージが届いたのは、丁度会食という名の腹の探り合いが終わり、帰途に着いたばかりの車中だ。豪勢な食事は毎度部屋に用意されてはいるものの、挨拶回りで手いっぱいなうえ、何か間違いがあってはならないため、精々飲み物をたしなむ程度。食事がまともに口に入ることはない。早く布団に入って、泥のように眠ってしまいたかった。 明日も日中はどこぞの視察に会食に会議に、と予定が詰まっているが、夜は空いていたような。いや、そのまま夕食に連れ出されるだろうか。将来のためには出たほうがいいことはわかっている。しかし。 「どうかなさいましたか」 「……いや」 気遣う声にそれだけを返し、窓の外をぼんやりと眺める。数日もすればこの忙しない日々も一旦休まるだろうが、代わりに卒業論文の作業が本格的に始まるだろう。論旨の方向性は決めているのだから、後はデータを集め、精査する作業が必要となる筈だ。 そういえば。このメッセージを寄越してきた相手は、俺が卒業した後も一年は残るのだったか。実習にレポートにととにかく忙しいようだ。思い返せば、短いメッセージのやり取りはしても、近頃とんと顔を見ていない気もする。
『遅くなるかもしれないが』 そんなメッセージが届いたのは、丁度帰途に着いたばかりの道中だ。日中は実習が休みのうちにとまとめて入れた短期のアルバイトに精を出し、疲れからのんびりと家路を歩んでいたときに目についた、鮮やかな色。 まだ肌寒い日も続くが、もうそんな季節だったか。あと数日で新学期が始まってしまうのだから、アルバイトももうできなくなってしまう。また、忙しない日々が始まってしまう。 そんなときだった。いつの間にか手に持っていた携帯電話がメッセージの受信音を立てたのは。どういう意味かわからない。が、その前に自分で誘い文句を送信していたらしい。完全に無意識だった。思い返せば、短いメッセージのやり取りはしても、近頃とんと顔を見ていない気もする。
「久しぶりだな」 「ああ」 落ち合ったのは、大学に程近い公園だ。ぽつりぽつりと街灯が、その満開の桜を青白く夜闇に浮かび上がらせている。新月へ向けてすり減っていく薄い月が、霞みがかったような雲の向こうからぼんやりと輝いていた。 人工的な灯りから僅かに離れたベンチに腰掛ける。語り合う口数も少なく、互いに風にさらわれていく花弁を眺めた。吹き抜ける風は、暖かさを忘れたかのように冷たい。 「室崎」 「何だ」 「どうだ、最近」 「そうだ、な」 暫く見ないうちに、少し変わった気がする。しかし、ぽつぽつと会話を続ければ、変わらない部分を見つけては、仄暗い喜びをも感じてしまった。 「なあ、」 ここに来る前に思ったことを今ここで言ったら、お前はどんな顔をするだろうか。
桜は花に顕れる ――平凡な人々に紛れていた人が、何かの機会に優れた才能を発揮すること