白衣をひっかけて、ニトは目の前のモニターに向かってカタカタとキーボードを操作する。先日の作戦で試験的に使用したガイドプログラムの精度が今ひとつ思わしくなかったのだ。改良版を仮想空間内でテストしようにも、あちらを立てればこちらが立たず、妙なところで現れるバグに思わず悪態が口をつく。 「もう、このコード書いたの誰だよお」 「何言ってるの。この前ニトが嬉々としていじくりまわしてたじゃない。あれだけやめた方がいい、って言ったのに」 「でもさあリト~! あれは絶対に必要だったよ。見た? この前の作戦」 「確かに対象者のマッピングは誤差がほとんどなくなってたけど……あれ、ガイドしてたのがユウキじゃなかったら危なかったでしょ」 「うっ……」 リトの指摘に、ニトはぐうの音も出ない。昨夜行われた作戦では、分断され単独行動を強いられたユウキをガイドするはずが、まんまと相手の誘導にかかってしまったのだ。レオを始めとする数人が合流することで事なきを得たが、一歩間違えればユウキを失う事態になってしまっていたかもしれない、と思えば全く笑い事ではなかった。ニトはもちろん拠点に帰ってきたユウキにきっちりと謝ったし、ユウキからはシステムの改修をする、ということで手打ちとなっている。 「ニト~、リト~、入っていい~?」 ニトが言葉に詰まっていると、部屋の扉が叩かれると同時に声をかけられる。リトが応じれば、ひょこりとレオが顔を出した。 「あ、ふたりともいたんだ。ちょうどよかった! はい、これ」 「何それ?」 「これはね~、アドベントカレンダーだよ!」 「アドベントカレンダー?」 「うん。毎日、その日の分の数字のところを開けるんだ」 レオが持ってきたのは、木の形をした置物のようだ。緑色の三角形の底部は幹のように四角形がついている。高さは50cmほど、厚みは5cmはないだろうが、十分自立する幅だ。緑色をした葉の部分には、白い文字で”MERRY CHRISTMAS"とそっけなく書かれている。上部に星が描かれているのを見れば、それが何を模しているのかは一目瞭然だった。 「これ、クリスマスツリーの形してるの? かわいい!」 「へへ。リョウと一緒に作ったんだ~!」 「え、レオが作ったの?」 「それどういう意味~?」 心底意外そうに言ったニトにじっとりとした視線を向けながら、レオはリトに向かって「はい、これ」と言って抱えていたアドベントカレンダーを手渡す。引き出しがついているから気を付けてね、と言い添えられたのに首をかしげながら受け取ったリトは、見えていなかった反対側を確認して破顔した。 「ほんとだ! すてき!」 「……あ! これ、もしかしてユウキに頼まれてたやつ?」 「そうだよ~! ニトが全部同じ大きさの箱作ってくれたから、リョウも作業がしやすかったみたい」 「自分で作ったやつがこうやって自分へのプレゼントになるなんて思ってなかったなあ」 「あら。でも素敵じゃない? こういうの。ユウキもイキなこと考えるわね」 「そうかなあ……」 箱の大きさを見て、ニトは以前ユウキに同じ大きさの箱を25個も作るように依頼されたことを思い出した。受け取ったツリー型のアドベントカレンダーとやらには、その時の引き出しにきれいに色が塗られて24まで番号が振られている。残りのひとつは予備にでもしたのかな、なんて考えながら、ニトはリトが抱えたものをすこしばかりこそばゆい気持ちで見やる。 「でもこれね、ニトがあの箱をわたしに渡してくれなかったらリョウがひとりで全部やっちゃうところだったんだよー!」 「そうなの?」 「うん。わたしもみんなと一緒にクリスマスを楽しんでほしかったんだって」 「ふふ。ユウキらしいね」 「でもでも、わたしはリョウと一緒が良かったから。ニト、ありがと!」 「ええ? それボクにお礼言うとこ?」 「うん!」 確かにユウキならそう言うかもな、とニトとリトは同時に思う。24個の箱ひとつひとつに色を塗って、数字を書いて、箱の中身も考えて、クリスマスツリーの形になるように外箱まで作って。毎日開けるのはきっととても楽しみだけれど、同時にもったいない気もする。 「えっと、これはニトとリトの分だから、毎朝ふたりで一緒に開けてね!」 「うん、わかった」 「ええ、わかったわ」 「じゃあ、私はちょっとやることあるから。じゃあね~」 ぱたりと閉まった扉を見て、ニトとリトは顔を見合わせる。それから同時に噴き出した。明るい笑い声が部屋の中に響き渡る。 「これ、開けるの明日からなんだよね」 「うん。システムもちゃんとしなきゃ」 「ねえリト。これ、僕たちの部屋に置こうよ」 「そうね。そうしたら、朝一番に開けられるもの」 そうしよう、と頷き合って、ふたりはアドベントカレンダーを棚の上に丁寧に置いた。それを見て頬を緩めてから、モニターの前に座りなおす。これからの作業は、うんと捗りそうだった。