コンコン、と部屋の扉がノックされる音に、ミツルは読んでいた本から顔を上げた。返事をすれば、水色と桃色の頭がひょこりと隙間からのぞく。 「ミツル、今いい?」 「どうした?」 「ユウキかレオから、何か預かってない?」  ふむ、とひとつ頷いて、ミツルは本を閉じて立ち上がる。ひょろり、とした影が近くに寄ってきたふたりにかかった。そうして、ミツルは手をふたりに差し出す。 「ほれ」 「はい」 「ん」  その手に乗せられたのは、大きなドライバーだった。頭の大きさをひとしきり眺め、おそらく問題のないであろうことを確認する。数日前に渡されたまま放置されていた戸棚から、金属製の小箱を取り出した。スチール製のそれは、蓋がネジで留まっているタイプで、ネジ頭が大きい。コインでも代用可能そうだったため、正直ミツルにとって、先に中身を見ることは造作もないことではあった。 「わ、すごい」 「厳重そう。そんなに大げさにする中身でもないと思うけれど」 「ああ、ふたりはもう中に何が入ってるか知ってるんだ?」 「うん。ボクたちはここに来るように、っていう紙と一緒にお菓子が入ってるから」  ミツルの問いに、ニトが答える。劇的なトップの交代劇に一時はどうなることかと思ったが、あの女もこの状況でよくやっているのではないかと思う。組織を立ち上げたリーダーの喪失を、ポッと出の人間がするという重圧は如何ほどか。俺は絶対にやりたくない、とミツルは心裡でひっそりと思う。  ここ数週間、落ち着いたと思ったら仕事のほかに何やらこそこそとしているから何事か企んでいるかとは思っていたが、きのうと一昨日の様子を見れば、このために仕込みをしていたのだとよくわかった。聞く話だとクリスマス関連なのだろうし、年末までに組織内の雰囲気作りと足ば固めにはちょうどいい。 「そうか。じゃ、ニト、お前が開けな」 「ううん。きもうも一昨日も、箱を預かった人に開けてもらったから。ボクたちは毎朝開けてるもん。ねん、リト」 「そうよ。アンタも駄々こねてないでさっさと開けなさいよね」 「ええ? 駄々なんてこねてないけどなあ」  文句を言いつつ、ミツルは受け取ったドライバーを箱のネジ頭に当て、くるくると回していく。あっという間にネジが外れ、蓋を開ければ、中からはパッケージ越しにもかかわらず、甘い香りが漂ってくる。大きく書かれた商品名にリボンがまかれたようなデザインになってはいるが、中身を見ることはできない。 「なんだこれ?」 「ミツル、食べたことないの?」 「アンドロイドにゃ不要だからな。こういう菓子類は特に食べないし」 「そっか。じゃあみんなで先に食べちゃう?」 「いいわね。じゃあひとつだけ開けちゃいましょ」  ニトの発言にリトが乗っかった。ミツルは箱の中からひとつだけパッケージを取り出し、脇を切る。出てきたのは、少し厚いパイ生地に砂糖がまぶされている板状の菓子が2枚入っていた。少し力を込めれば、それは簡単に縦に割れて行ってしまう。 「これは、食べにくそうだな」 「こぼさないように食べるの、結構難しいよね」 「ニトはいっつもこぼしすぎなのよ」 「リトだって人のこと言えないクセに~」 「そんなことないわよ!」  もはや日常となった言い合いを尻目に、ミツルは袋の中からパイを一枚取り出す。舌に砂糖の甘さが付いた後、パリっとした音を立てて、生地が口の中であっという間に溶けてしまった。初めて食べるものだ。 「これ、おもしろいな」 「それはおいしいじゃないんだ?」 「一袋は食べられんだろうな」 「そういうものじゃないから……」  ニトとリトと他愛のない話をしながら、ミツルはもう1枚も口に運ぶ。この後はこの箱の中身を配らねばならない。いっそ昼食時にかこつけて、食堂の隅に箱ごと置いておくとするのも手か。それは企画の趣旨に反するだろう……そうだ。この企画の立役者に1番に献上しに行こう。組織の中で自分の役割をこなすために一足飛びに大人になってしまったふたりの頼る先、甘える先となったあの女へ。