「それで、今日がこれってこと?」 「うん。お菓子がなかったのは初めてだし」 「指示がいくつかあったのも初めてよね」 「ふうん」 食堂で朝食を食べながら、ニトとリトは目の前でサンドウィッチを頬張るシズクの前に紙を広げた。 ”make your Star" いつものようにふたりが開けたアドベントカレンダーの引き出しには、それだけが書かれた紙が1枚と、人物を示す謎の書かれた紙が3枚入っていた。そのうちのひとりが、目の前のシズクだ。そういえば紙を預かったな、と言うシズクは、コーヒーまでゆっくり飲んでから自室に戻る。その間に、ほかのふたりにも声をかけ、預かったものを持ってきてもらうことにする。
しばらくして自室に戻ったシズクが、包装紙に包まれた大きな薄い物を持ってきた。なるほど、確かにこの包みの中身は十中八九紙に違いない。紙に何かを書きつける、と言うような文化は廃れて久しいし、ニトもリトも古い資料でしか見ることはない。近くにいたアンドロイドたちも心なしかそわそわとした雰囲気で、シズクが中の物まで破らないように包みを開けていくのを眺める。 中から現れたのはキラキラと輝く金色の紙だ。ビニールに包まれて数パック入っている。中を開けてみれば、金銀だけでなく、赤青緑と様々な色が入っていた。 「え、何これすご!」 「わあ、キラキラした紙なんてあるのね」 「実物初めて見た」 「キレイだな」 ニトとリトの感嘆の声に釣られて、周囲のアンドロイドからも口々に感想が溢れる。コピー用紙ですら必要としないスパローにおいて、特殊紙を見る機会というのは更に限られる。社会で働いていたアンドロイドならいざ知らず、虐げられ、廃棄されるような環境にいたようなアンドロイドであれば尚更機会はないだろう。 「何か落ちたよ……説明書?」 「あ、”make your Star"だって」 「今朝の紙と同じね」 「じゃあ、このキラキラした紙で星を作れってこと?」 シズクが持ってきた包みの他に並べられた箱からは折紙セットにハサミとカッター、定規にテープ、のりなど、様々な文具が入っていた。そこからぺらりと落ちた紙をニトが拾い上げる。シズクが読み上げ、リトが同意する。その紙の下には、簡単な立体の星を作る方法が書かれていた。誰かが上げた声に、一同は顔を見合わせる。一瞬の沈黙。そうして、わ、と歓声が上がる。 「すっごい! こういうのやったことないよ」 「どんな色がいいかしら?」 「大きさとか指定ある?」 「ねえ、せっかくならとびきり大きいのをひとつ作ろうよ」 「そうだね。じゃあとっておきのができるように、ちょっと練習しない?」 「自分の星なんだから、自分の分の星は作らないといけないみたいだしね」 それなら、と思い思いに折り紙を手に取る。説明書に従って器用に星をひとつ作り上げたニトが自分の星を自慢しながら、周囲のアンドロイドに助け船を出していた。 「ちょっと折り曲げて端を切るだけでこんなのができちゃうなんて面白いなあ。ボクの研究にも何か使えるかも」 「ニトっていっつもそれよね」 「何おう!? ボクの研究はすっごいんだぞ〜!」 折り紙を縦に横に斜めに折ってハサミを入れれば、あっという間に星ができ上がる。もう一枚同じものを作って貼り合わせれば、あっという間に立体の星が完成した。それでも、手先を操ることが苦手だったり、ハサミを扱うことが苦手だったりするアンドロイドはいる。ニトもリトも、そういったアンドロイドと一緒に作業をしながら軽口を叩き合っていた。 その場にいる全員が自分の星を作り終えた頃、いよいよ本番、とばかりにどんな色を使って星にするか話し合いが始まる。その頃にはニトは様々な作り方で星を作れるようになっていたし、リトは星を数種類組み合わせて、可愛らしいものを作ることができるようになっていた。 「せっかくだし、水色とピンクで作ったらいいんじゃないか?」 「でも、大きいのを作るなら王道の金銀も捨て難いよな」 「うんうん。あ、どうせなら赤とか緑もいいんじゃない?」 「ならいっそ、カラフルにしてみる?」 「うーん、角の数なら……10色?」 「ええと、金銀赤青緑水色ピンク黄緑紫オレンジ?」 「すごいギラギラしそう」 「いいんじゃない? 私たちらしくって」 改めてキラキラと輝く紙のパックを開けてみれば、やろうとしていたことを見越したかのように厚紙も数枚入っていた。ニトが設計図を引き、それぞれの担当が10枚の色紙に慎重に線を引き、カッターで切り抜いていく。どの色をどう配置するかを決めて貼り合わせ、台紙となる厚紙に貼り付けて組み上げていく。 作業自体はさほど時間を要することなく完了した。出来上がった虹色に輝く星に、どこからともなく歓声が上がる。組み上げる際に誰かが出した自立できるようにしよう、というアイディアもあり、机の中央でキラキラと輝く星が完成した。 「”make your Star"じゃなくて”make our Star"だね」 そう言って笑い合う、コンクリート打ちっぱなしの食堂は、様々な色の星が輝いていた。