2050年10月15日PM四時 廃品置き場にて
今日もあの日と同じように雨が降っていた。結城は今日も、いつもと同じようにパトロールのため、廃品置き場へと訪れている。以前と一つ違うことといえば、隣にパートナーであるアンドロイドがいることだろうか。
あの日、この場所でスクラップ寸前だったところを拾い、パートナーとなったアンドロイドーーみなもは、あの日と違って隣を歩きながら、傘に跳ねる雨音の隙間を縫って鼻歌を歌っている。機嫌よく揺れる傘を横目に、結城とみなもは並んで歩た。
「あんたいつもご機嫌ね」 「うん。ここは思い出の場所だからね~。ほら、マスター、覚えてる? ここでマスターが僕のこと拾ってくれたんだよ」 「ああ。ゴミになってたものね」 「ゴミって言わないで地味に傷つくから」 「いきなりマスターって言われたし」 「うん、今ではちゃんとあのときはまだマスターなかったってわかってるんだけど、ぶっちゃけ、あの時ほぼ同時にマスターになったから、実質すでにマスターだったのと同じようなものでしょう?」 「よく言うよ。相変わらず口が回ることね」 「え、回る? えっとね〜、生麦生米生卵!」 「ああ、いい、いい、そういうの」 「えっ、はあい」 「ほら、さっさと行くよ」 「うん。待って、マスター」
他愛のない話をしていると、遠くに人影があることに気付いた。こんなところに珍しい。人影に向かっ歩いていけば、そこには金髪にメガネが特徴的な女性がいるのが見える。
「あ、ちょっと待ってダメだ。今、あのここ電波電波悪い電波が悪い」 「いくらスクラップ置き場でも、そんなことないでしょ。気のせいじゃない?」
言いながら彼女が見つめる方向を見れば、そこには廃棄されたアンドロイドが転がっていた。彼女はそれをただ見つめているようだ。
「黄海さん」
声を掛ければ、話しかければ、彼女はゆっくりとふり向いた。
「あなたたちはたしか、同じ。アンドロイド課の」 「はい。明日から。よろしくね」 「よろしくお願いします」 「ああ、私は結城、こっちはみなも」 「はい。結城涼のパートナーアンドロイドのみなもです。よろしく~お願いしま~す!」
傍のみなもは彼女に興味がないのか、挨拶はとってつけたような有様だ。時折このアンドロイドが見せるふ、とした「他人事」然とした様子が何処から来ているのか。結城は一瞥するだけで何も言わないことにしている。
「よろしくお願いします。私は黄海夏美。あなたたちはここで何をしてたんですか?」
「見回り」 「という名のお散歩です!」 「散歩じゃない」 「お仕事です!」 「そう。私と一緒ですね」
端的に言葉を返せば、みなもが話を脱線させにかかってくる。今日初めて会ったはずなのだが、黄海のことを何か知っているのかもしれない。どうしてもそういうふうに思えて仕方がなかった。
「それで、その子。どうかしたの?」
結城がひとつ問いかける。黄海はそれに少しばかり考え込んだような顔をしてから答えた。視線は合わない。転がっているアンドロイドは、完全に沈黙しているように見えた。
「大したことではありません。ただ。人型のものが捨てられているとなんだか変な感じがして。VOIDの違法投棄なんて今に始まったことじゃないんですけど。気になって、少し考え事をしていました」
ここはスクラップが山となっている、不法投棄で有名な場所だ。行政が手を入れても追いつかず、いつしか見放されてしまった、そんな場所。ここに対して誰が何をしていようが、何を捨てていようが、何を拾おうが、誰も文句は言わない。そんな場所。
処分場で解体されるか、たくさんの「ゴミ」に紛れて埋もれるか。そんな違いである。
「人と同じように話して動いて、見た目は殆んど変わらない。なのに捨てられる時は一瞬なんです。人間はお墓に入るのにアンドロイドは人形と同じ。ゴミ箱に入れられるだけ。あなたたちはどう思いますか?人とアンドロイドって何が違うんでしょうか?」 「黄海さんは珍しい人ですね~。そういうお考えの仕方してると生きづらくないですか?」 「そう、でしょうか」