ーーシステム起動中  ーーシステムチェック開始  ーーシステムデータベースへ接続中  ーーネットワークへ接続中  ーー地形データリンク開始  ーーシステムオールグリーン  ーーこれより起動開始します

「X000、起動しろ」  ゆっくりと目を開ける。まず目に入ったのはコンクリートの壁。それから地面に転がる廃品の数々。そして目の前に立つ男と、その後ろから顔を覗かせるよく似た少年少女。  状況を解析しようとするが、うまく思考がまとまらない。自分がなぜここにいるのか、自分は何者なのか。目の前にいる彼らは何者なのか。かろうじてわかるのは、自身がアンドロイドであるということのみだ。  無愛想で鋭い目つきの男はこちらをまっすぐ見ると、一言告げる。 「協力してほしい。事件を止めるために」  そこで、意識はシャットダウンした。

ーー腹部に衝撃を確認。至急確認してください。  目を開ければ、そこには腹部で勢いよく跳ねる少年がいた。  どうやらこちらを起こそうとしているようだ。しかし、このままではいくらアンドロイドと言えど、機体が損傷してしまう。ちょうどやってきた少女が、少年に声を上げた。 「ちょっとニト、あんたまた機械を乱暴に扱って! そんなんだからいつまでたっても半人前なんでしょ!」 「わあ!」  こちらが目を開けたのに驚いたのか、少年が驚いて叫んでから、こちらを見下ろして笑みを浮かべた。どうやらニトと言うらしい。 「あ~、やっと起きた? キョウが呼んでるぞ」 「腹部にダメージを確認中。腹部のダメージを確認中です」 「あ~ごめんごめん、ちょっと起きないからさあ」 「およそ五十キロを超えた物体の連続的な衝撃を確認」 「ああ、ごめんごめんっ」 「も~手荒なんだから」  ダメージの確認アナウンスをすれば、ニトが慌てた様子で腹部から退いた。これ以上の腹部への損傷のリスクが見込めなくなったことに安堵する。その様子に呆れたように声をかけてきた少女が、今度はこちらに手を差し伸べた。 「起きれる?」  機体の状態を確認すれば、ある程度修理がなされているようだ。まだぎこちなさは残るものの、不調という不調は見受けられない。 「関節部分もオイル切れのようなものは感じますが、特に支障はありませんね。 えっと、あなたが私のマスターですか?」  問いかけには、そしたら二人そろって違うよ、と首を振られた。ニトが何かに気付いたように声を上げる。 「そういえば自己紹介がまだだったな。僕の名前はニト。将来、世界を揺るがすマッドサイエンティストだから、お前も仲良くしておいたほうがいいぞ! あっ。ちなみに僕はお前のマスターじゃないからな」 「マッドサイエンティスト」 「そう。マッドサイエンティスト」 「マットサイエンティスト。 ペルシャ絨毯でも作るのかな?」 であのその隣でね女の子の方が 「ああ」 と、呆れたように、あの肩を竦めて、 「あたしの名前はリト。そこにいる自称マッドサイエンティストの姉。まあ、そいつの言うことを本気にしなくていいから、大丈夫よ。ほっといてもいいわ」 「わかりました、リト。ニトのいうことは無視していいんですね」 「え? 違う違う違う違う違う、僕のことちゃんと聞いて、僕のこと無視しないで! ダーメ!」 「……どうしましょう、命令が矛盾しています。 あ、でもお二人ともマスターではない、ということなので。 最終的にはマスターの決定に従うか……」 「じゃあまあそういうことでいいんじゃない。とりあえず行くわよ」 ニトリトに手を引かれて室内を歩いていきます。 ええ地下にあるというこの施設は、所々に設置してある電球があたりを照らしていた。昨日、この施設で目を覚ましたあなたは大した説明を受けず、何がなんだか分からないまま検査を受けたり、機体をいじられたりして今に至っています。 「お前の名前は?」 「自分ですか? 私はX0001番です!」 「ん?名前がないのか。ふうん。あ、じゃあ僕がつける? ポコ太郎なんてどう?」 「イヤです」 「え? ポコ太郎、いいんじゃない? ポコ太郎」 「イヤです」 「ね? ポコ太郎」 「イヤです」 「まあ、心配しなくてもいいわ。たぶんキョウがつけてくれるから」 「その、キョウというのがわたしのマスターですか?」 「ああ、マスターってわけじゃないと思うんだけど。 ここのリーダーっていうかしら」 「リーダー」  そんな会話をしながら、あなたが歩いていくと、やがてとある一室にたどり着きます。でニトはね、その扉をノックもせずにガチャっと開けていきますね。ガチャ。  中に入ると、そこにはたくさんのモニターに囲まれた管制室のような場所だった。モニターには監視カメラやドローンから映像を拾っているのであろう、外の世界が映し出されている。 その部屋の中央、モニターを見ていた男が振り返る。 「ああ、来たか。ニト、リト、助かった。もういいぞ」  男が言うと、ニトとリトは男の両隣の立つ。そんなふたりの頭を男が軽くなでた。この男がキョウという人間だろう。 「きのうは大した説明もなしにすまなかった。俺はキョウだ。一応この組織をまとめている。 お前は機体の損傷が激しくてな。こっちでいじらせてもらった。今の体の調子はどうだ?」 「えっと、今の体の調整についてですね。一部、関節部分にきしみのようなものがありますが、それ以外概ね問題はありません。 あなたの名前はキョウですね。ええ、私のことを修理してくださったとのこと。ありがとうございました」 「気にしなくていい。少しお前に頼みたいことがある。それで助けさせてもらったというのが正しい。ああ、俺は世間話があまりうまくないからな。早速だが、本題に入らせてもらう。  俺たちの組織名はスパロウ。普段は人間から逃げてきたVOIDの保護や失業者の支援なんかをしている。といっても、俺たちはボランティア団体じゃない。とある事件を追っているんだ。  十年ほど前、とある一家の両親が惨殺死体で発見され、その家の子供が行方不明になったのが始まりで、それから短期間で似たような事件が多数起こった。 その後も事件は続き、警察も犯人をつかめずにいる。ここ数年は落ち着いたように見えたんだが。また最近似たような手口の事件が起こり始めてな。  この組織の人間、アンドロイドたちはこの事件を止めるために集まっている。みんなそれぞれ事情は違うが、目的は同じだ。しかし、やはり捜査といっても警察でもない俺たちでは限界がある。そんな時にお前を見つけた。この地 下室、地下施設を調べていたらたまたまな。  かなり古い機体のようだが、それとは裏腹に 性能はほかのアンドロイドに劣らないどころかそれ以上。こんなアンドロイド初めてだ」  キョウが言葉を切ったところで、ニトが、口を挟む。 「X000なんて型番も初めて見たしな~。ポコ太郎はどこから来たんだ?」 「つまり、私、超優秀ってことなんですね~?」 「まあそうなるな」 「いや~なるほどな~! どうりでこれだけ喋れるわけだ。いや実は今と何の記憶もないんですよね~いろいろわからなくて! 自分の名前もわからないし、どういう経緯で製造されたのかもわからないし、それにあなたたちも私のことを知らないとなると、うん、そうです。ですね。私については詰まるところ、一切合切、何もかもわかりません!」 「わからない? わからないって割にはポコ太郎ってそんなふざけた名前……」  キョウは少しばかり沈黙した後、ニトとこちらの顔を見る。それから、何か納得したかのようにひとつ頷いて、撫でていたニトの頭に軽く手刀を入れた。 「ニト、勝手に変な名前をつけるな」 「ああ、話が逸れたな。それで、お前に頼みがある。 近々日本の警察組織にVOIDが導入されることになった。それでたお前もそのVOIDたちに混ざり、警察に侵入して情報を取ってきてほしいきなりこんなことを言われて混乱するだろうが、優秀なお前の力が必要なんだ。頼む」 「ゆ、優秀な、僕の、自分の、私の力が、ひ、必要……! 分かりました。また、このX000、誠心誠意を持って務めましょう。直してくれたお礼です。どうぞ、泥船譲ったつもりで楽しみにしてください!」 「……一つ訂正をすると、泥船は沈むんだ」 「おやおや」 「ああ、協力してくれてありがとう。 そういえばお前、名前もないんだったな」 「まあそうですね。今の所、現時点不明です」 「まあ、わかるだろうがこの組織では本名ではなくてコードネームで呼ぶようにしている。それに伴ってお前の名前が必要なんだが……そうだな。レオはどうだ?」 「レオ。ライオンですか?」 「ああ、ライオンだ」 「私個人としては私のようなこんな可憐なアンドロイドをライオンのような猛々しいライオンの名前をいただくにはやや不都合な気をするのですが。うん、ですが」 「ライオンは優秀なんだろう?」 「うん、そうですね。では、私は有能なメスライオンとして、レオを名乗りましょう」 キョウはアンドロイドよりも無愛想なその男は、その口元を少し緩めた。 「これからよろしく。 レオ。ようこそスパロウへ」 「ではこちらこそよろしくお願いします」