前々から熱望していた塩の女王との謁見よりも、きのう散々見かけ珍妙なマークの方が気を引くらしい。朝になって、広場で妙な集団が話していた博物館はどうだ、などと言い出したのだから、それはそれとして、付き合うことにする。もとより別れての探訪は考えていないので、今更ではある。 「今日はどうする?」 「ううん、正直情報が少なすぎて手詰まりというか」 「何かお探しかい?」  近所の店でサンドイッチを頬張りながら話をしていると、隣で新聞を広げていた老紳士が声をかけてきた。ローレンツ・ベッカーと名乗った彼は、手元のサンドイッチを皿に置いてこちらを促す。 「この辺りで、写真を扱っている美術館ってありますか?」 「美術館はたくさんあるけれど、写真か……ダイヒトーアハレンなんてどうだい?」 「ダイ……なんです?」 「ダイヒトーアハレン、いわゆる現代美術館だね。元々青果市場だったのを改装したんだ。必ず写真家の個展をやっていたと思うよ。写真に興味が?」 「いえ、そういう訳ではないのですが。せっかく旅行に来たので、芸術にも触れたくて」 「そうかい。確かに明後日はワイナッヘンだから、美術館も閉まってしまうしね」  そう言うと、少し考えるそぶりをして続けた。 「そうだ。芸術に触れる、というのならば、コンサートはどうだい? コンサートホールに行けば毎日のように演奏を聴くことができるよ」 「贔屓にしているところはあるんですか?」 「オペラなら間違いなく州立歌劇場だね。でも、古い建物が好きならライスハレも良いだろう。新しい建物なら、エルプフィルかな」 「毎日発表をしているホールがそんなにたくさんあるんですね。オペラなんて見たことありませんが」 「ならオーケストラはどうだい? たまの楽しみも大切だろう。ああ、でも、行くならジャケットくらいは羽織った方がいいかな」  それに肩を竦め、礼を言って店を出る。良い旅を、との声に、同居人がニッコリと笑みを返した。 「で、どこに行くの?」 「まあ、せっかくなら色々行きたいなって。とりあえず、ダイヒトーアハレンっていう美術館かな」 「確かに、州立美術館は一日じゃ回り切れなさそうだ」 「というより、今日でクリスマスマーケットが終わるなら、見て回らないといけないところが多すぎるよ」  頭の中で予定を組み立てる。現代アートの美術館、夜はちょうどあると言うコンサートホールでのクラシック鑑賞。合間にクリスマスマーケット巡り。 「芸術巡りじゃん」 「たまにはいいでしょ。芳矢さんも、素敵な絵に出会ったら話のきっかけが見つかるかもしれないし」 「そこまで世話しなくていい」  ダイヒトーアハレンの開館は十一時らしい。少しばかり時間があるため、昼間のクリスマスマーケットに繰り出すことにする。  その前に、先ほどオーケストラに行くのであればジャケットを羽織った方がいい、とのアドバイスをもらった。が、そんなものは持ってきていない。ジャケットを着るならスニーカーもよろしくはないだろう。  元々予定もなかったのだ。聞いていれば革靴くらい持ってきたものだが、ないものは仕方がない。買い物だ。  クリスマスマーケットで賑わうシュピタラ―通りにある店で、革靴とジャケットを調達する。パンツはたまたまチノパンを履いていたので、それに合わせれば良い。インナーも上からジャケットを羽織ればそれなりに見えるだろう。職業柄、在宅が多いために外に着て行く用事も大してない。タンスの肥やしがまた増えてしまう。  しかしながら、楽しそうに服を選ぶ同居人に、まあいいか、なんて考えてしまうのだ。これから社会人となる同居人は、着る機会がいくらでもあるだろう。ジャケットからネクタイから靴に至るまで選んだものを身に付ける姿を見るのは悪くない。  荷物を店で預かってもらうように頼み、来た道を戻ってダイヒトーアハレンへ向かう。歩いて二十分ほどの距離だが、遠慮なくUバーンに乗り込んだ。とにかく寒いし寒いし寒いのだ。

あっという間に到着した目的地で電車を降りる。目の前にある建物は、広々とした扇形の芝生の後ろにぽつねん、と建っていた。バロック様式のような装飾華美のゴテゴテしていた聖ニコライ教会とは趣を異にし、五角形の屋根に丸く窓が取り付けられている様は可愛らしくさえ感じる。 「思ったより広いんだね」  どうやら三つの棟に分かれているらしい。一番大きなホールである写真館では、有名な写真家の個展が、現代アートホールでは『赤』をテーマにした作品が並んでいた。  戦火が主題となっているものが少なくなく、第二次世界大戦の頃に描かれた絵画や、それを表現した彫刻、日本からも広島や長崎の被爆体験をモチーフにした作品が数点出品されていた。  そんな中、一枚の絵画が目に留まる。作者はシュウ・カバネ。日本人らしい。 「これ」 「……うん。きっとそうなんじゃないかな」  ――深淵を覗き込んだとき、深淵もまた、こちらを覗いている。  そんな言葉が、頭を過ぎった。今までに触れた数々の不気味で悍しくて痛ましい出来事の数々を。それを押しかためて形にしたのなら、きっと、こんな風になる。  それは、自画像なのだろうか。フードを被った人物が描かれているだけだ。赤と黒の濃淡だけで表現されるその人物は、輝くナイフで自らの腕を割っていた。そこから、まるで石榴のように熟れた実が溢れ落ちる様をじい、と見つめている。  表情はわからない。己の肉体に対する興味なのか、自らを痛めつけることに興奮を覚えるのか、はたまた単なる作業のように、何の感情も抱いていないのか。何を覚えるのかは、いつでも読み手に委ねられる。芸術とは、そういうものだ。  この絵が持つ底知れなさは、芸術家の性なのか、本人の気質なのか。はたまた、深淵を覗いたもの、なのか。知りたくもないし、わかりたくもない。経験を共有しようとも思わない。案外活動的な同居人はわからないが、僕はおそらく、出会うこともないだろう。不思議と、そんな確信がある。  他にも様々な作品が出展されていたが、嫌に印象に残ったのは仄暗い赤を示したあの作品だけだった。    思っていたよりも時間が経っていたようで、ダイヒトーアハレンを出る頃にはすっかり小腹が空いていた。時刻は昼過ぎ。一息つけるランチは、ギャラリー内のレストランにした。全面ガラス張りになっていて、開放感のある佇まいが店を一層広々と感じさせる。  注文した食事が来るのを待つ間、何事かを調べている同居人の指が携帯電話の画面を滑るのを眺める。 「ねえ。合唱とオーケストラだったらどっちがいい?」 「オーケストラ」  どうやら、今晩のチケットを取っているらしい。当日券も案外残っているものか、と思っていれば、明日のクリスマスイヴから二十六日までの分は完売だ、と言われた。店を閉めて家族でクラシック鑑賞をするのだろう。 「え……はあ?」 「何?」 「後でね」  ちょうど食事が来たのを見て、同居人が携帯電話を鞄へ放り込む。見た目が独創的な料理だ。カラフルなトマトやメロンのピクルスの上に帆を張るように、クラッカーのようなものが刺さっていた。茶色のそれはチョコレートかと思いきや、どうやら違うらしい。ゴマの香りとともに、普段食べるパンとは違う味がする。材料はわからない。  それから、白身魚に不思議なソースがかかっている。タルタルソースの親戚のような、何とも言えない味わいだ。おしゃれな形のマカロニが乗っていて、目にも楽しい。 「ねえ。地図貸して」 「ん、はい」  食事を終え、コーヒーをすする同居人に声をかける。受け取った市内中心部の地図を見つめ、大きく息を吐き出した。目的が何かはわからないが、経験上、ろくなことを考えている集団でないことが確信できてしまう。国が違ったとしてもオカルティックな事件に遭遇してしまうと言うのは、もはやそう言う星の下に生まれたとでも言うべきか。 「何かわかった?」 「地図をよく見て」 「ん」 「星形もどきの妙な集団が目的を持って集まっていたのは、聖ミヒャエル教会だよね」 「うん」 「それから、さっきの美術館にも」 「……聖ニコライ教会」  地図を指でなぞった同居人が、は、と顔を上げる。聖ミヒャエル教会からまっすぐ東へ結んだダイヒトーアハレンのちょうど中間地点に、聖ニコライ教会が位置している。きのう爆撃の形が星形だとか言う話を聞いた、その場所だ。 「はい正解。ついでに、その南側には何があるでしょうか」 「倉庫街、か」 「大当たり。おめでとう。じゃあ最後。コインの星形もどきを地図に載せてみると?」 「うわ。何しようとしてんの? バカなの?」  変形しているとはいえ六芒星のうち、三点と中心点がわかっていれば、大凡の形の予測は付く。街にそっくり例の模様が重なるような配置に建物があるのは偶然か否か。それはわからないが、少なくとも教会は二百年は前の建物だ。その頃から何かしらが脈々と受け継がれる物があるのかもしれない。 「……芳矢さん、残念なお知らせがあります」 「ものすごく聞きたくないけど、何?」 「この一ヶ月、毎週焼死体が見つかっています」 「うわ」  経験上、よろしくないことが起きる前兆に違いない。心底やめてほしいし巻き込まれえたくはない。しかしながら、ここで見て見ぬ振りをすると禄でもないことになるということもわかっている。同居人ともども、妙な経験値は高いので。 「しかも、焼かれる前に水分が抜けてミイラ化しるらしいよ」 「人間業じゃないね」 「残念だけどね」  すまし顔のままコーヒーをすする同居人を見遣る視線が胡乱なものになってしまうのは仕方がないと思う。結果的に妙な集団が気になった同居人の勘は間違いではなかったが、せっかくの海外旅行くらい楽しませてほしいと思うのは間違っているのだろうか。 「最初に遺体が見つかったのは十一月二十九日。場所は、ハーフェン・シティーの観光案内所そば」  地図を覗き込めば、このレストランの目と鼻の先だった。この後のコースは決まりだろう。この時点でもう嫌な予感しかしない。 「二件目は翌週。十二月六日。聖ミヒャエル教会。三件目は十三日。ダイヒトーアハレン。次が二十日。ライスハレ」  今までは毎週日曜日の早朝に遺体が発見されていたらしい。元々日曜日の人通りは多くないが、土曜の夕暮れ以降は輪をかけてひっそりとしたものであったとか。 「……あーっと……明々後日、クリスマスだね」 「やめてくれる?」  恐ろしい想定を聞いてしまった。ありえなくない。どころか、大いに有り得るのだから、全く笑えない。 「ほら、ね、アドベントって要するにイエス・キリストの生誕祭の準備期間でしょ」 「やめてくれる?」 「ってことは、生誕日を盛大に祝おう、みたいな……」 「やめてくれる?」  散々聞くことを拒否したが、聞き入れてはもらえなかった。どころか、最後まできっちり話をされてしまう。心底聞きたくなかった。本当になりそうで。まあ、なるのだろうが。 「芳矢さんが言い出しっぺでしょ」 「最後まで言えとは言ってない」  そう言って店員を呼び、会計を頼む。可能性として頭の片隅にはあったが、似たような経験を散々している同居人の口から同じ予想を聞きたくはなかった。気が合うのは結構なことだが、こういったことが外れないのは、結構困る。ゆっくりできない、という意味で。    店を出、件の現場に向かう。歩いて十分程度だ。銅像が立っている。クラウスなんとかという人物らしい。 「クラウツ・シュテルテベーカー。誰だろうね」 「一四〇一ってことは、ハンザ同盟全盛期くらいかな」 「ええと……あ。海賊だって」 「へえ。海賊の銅像なんて立てるんだ。村上水軍みたいな?」 「うーん、どっちかっていうと義賊って感じかな」 「ふうん。海賊だ」 「うん……あ。処刑されるときに、仲間を並べて歩いた数だけ助けてほしいって言ったんだって」 「何それ。どういうこと?」 「首を切ったところがスタートで、何人目まで助かるでしょうレース的な」 「いや、そんなの惰性で二、三歩いけるかどうかでしょ」 「十一歩」 「は?」 「十一歩歩いたんだってさ」 「やばすぎ」  そんな話をしながら、川沿いを歩く。事件があったのは一か月近く前のため、流石に痕跡は残っていないようだった。  コンサートまでの時間潰しは、今日で終了というクリスマスマーケット巡りだ。どれもそこまで大きなものではなく、街の小さな商店街の夏祭りが点在している、といえばイメージしやすいだろうか。  とはいえ、どこも雰囲気が違っていておもしろいものではあるが、お土産という意味ではこれからのことを考えれば手にしにくいし、昨晩ほとんど済ませてしまっているので、少しつまみつつ冷やかす程度だ。  預かってもらっていた店で革靴に履き替え、目当ての会場へ向かう。先ほど同居人がチケットをインターネットで確保していた。席によって値段が違うらしく、四十ユーロ弱の真ん中の値段のものだ。相場がわからないため、安いのかどうかわからない。と言うよりも、音楽鑑賞など門外漢のため、値段分の価値がわかるとも思えないのだが。  そもそも日本でのコンサートの相場もわからない。相違ば、以前担当が好きなアーティストのライブのチケットのためなら薄給の懐に大打撃を加えるとしても一万円は惜しくないとかなんとか言っていたような気がする。そう考えれば相場は日本とあまり変わらないのかもしれない。 「クラシック……寝るかな」 「やめてよね」  始まってみれば、案外聞き覚えのある曲も多い。日常的に様々なクラシックが使われているのだ、ということを実感する。電話の保留音やら風呂の炊き上がりの合図の音など、一部分しか使われていないこともあり、通して聞いてみれば、また違った印象を受けた。  クリスマスが近いこともあり、それを意識した選曲もしているようだ。  なんだかんだ楽しんで聞いていれば、あっという間に一時間半が過ぎていた。慣れないことに集中していたせいか、空腹を感じる。しかしながら、着替える場所があるわけでもない。  すぐ裏手の人目のつかない場所で、手持ちの紙袋からスニーカーを取り出してゴソゴソと履き替えていると、遠くから、話し声が聞こえてきた。ひそやかに、歌うように。先ほどのクラシック・コンサートのような響きを持って。 「……聞こえた?」 「行きたくないです」 「マジで何かしようとしてたらどうする?」 「……旅行を満喫して、家に帰ることってそんなに難しかったっけ?」 「……某名探偵だと思えばいいんじゃない?」 「いや、僕死神とか言われたくないんだけど」  声が聞こえたところで一旦その場から離れ、ボソボソと相談をする。あの妙な集団がこの街自体を仕掛として何かを起こそうとしていることはわかる。しかし、その目的は何か、何が起きるのか、阻止することは可能か、その方法は。わからないことだらけであることに違いない。 「……とりあえず、今日は帰ろう。情報がなさすぎる」 「そうだね。着替えてクリスマスマーケットにでも行って、ワインでも飲もう」

揃って踵を返そうとしたとき、背後から大声が聞こえてきた。次いで、バタバタと駆ける足音。近付いてくる。  慌てて駅へ駆け込み、ちょうど来ていた電車に滑り込んだ。背後から階段を駆け下りる音と声。窓から伺えば、濃紫のコート――ローブにも見える――を纏った人物が数名、電車の中を睥睨していた。 「何だって?」 「待て、っていうのと、コインを寄越せ、だって」 「いや、むしろこっちが押し付けられた側じゃない?」  そこまで言って、コインがあるであろう場所へ顔を向ける。大仰に肩をすくめた同居人がポケットを叩いた。 「ねえ。なんで見えるところにないコインのことがわかったわけ?」  全く持って、考えたくもない。

二駅ほどで降りた先はアルスター湖だ。こちらもクリスマスマーケットが開催されていて、ライトアップがされ、湖畔に並ぶマーケットも少なくない。マーケットが終わる午後十一時に、ライトは消灯されるらしい。一斉に照明が消える様は、さぞ異様に映ることだろう。  グリューワインを飲みながら、通りをまっすぐ歩いていく。日本の祭りとは異なり、どの通りも広々としており、歩くのに苦労はなかった。途中で見つけた屋台で、皮がパリパリに焼かれたヴルストを購入する。コッペパンから半分以上飛び出ていて、パン越しに熱が伝わって来る。 「待って。これ熱くて食べられないんだけど」 「外寒いんだからすぐに冷めるよ」 「いや、それもそうなんだけど」 「コンビニで肉まん買うようなもんでしょ」  同居人は釣れなく言いつつヴルストにかじりついた。パリッとした皮を破る音と、香ばしい肉の焼ける香りが鼻をくすぐる。知らず、喉が鳴った。 「熱い?」 「ん、まあ。早く食べなよ」  熱いのだろう、はふはふと口を開け閉めしつつお座なりにされる返答に肩を落とし、意を決して目の前の腸詰めにかぶりついた。パリパリに焼き上げられた皮を噛みちぎれば、中から旨味が肉汁とともに溢れてくる。何かのハーブだかスパイスだかとニンニクが鼻を舌を満遍なく刺激した。 「んま」  今まで口にしてきたソーセージと段一つ違うレベルの美味さ。惜しむべくはスーパーで購入したとしても日本まで持ち込めないことか。通販か何かで購入することは可能だろうか。 「あれ、テューリンガーっていう種類なんだって。日本で手に入れられるか探してみないと」 「店長さんに頼んでみたら?」  同居人のアルバイト先のカフェの店長は恰幅と気前のいい男だ。都心にあって随分とレトロな店を構えている割に値段は良心的で、常連客も少なくない。あの店のナポリタンは絶品だ。そこのメニューに、このヴルストが加わる……無責任に言い放ってみたものの、実現するならそれほど嬉しいこともない。 「よっぽど気に入ったんだ。まあ、言うだけ言ってみるけど」 「うん。また食べたい」  のんびりとワインを飲みつつぶらりと店を冷やかしていると、湖畔にぼう、と立つ人影が見えた。世闇に紛れそうな衣服が、「白魔法」の名を冠されたこのマーケットから浮いている。  しばらく見ていれば、何事もなかったかのように人混みに紛れていく。その背に、コインのマークが描かれているのが見えた。 「……あれ」 「どうしたの?」  人影が立っていたあたりで、かさり、と音がした。しゃがみ込んでみれば、何かの切れ端のようだ。理解不能な文字が綴られている。 「……本命かもね」  隣から覗き込んでいた同居人が紙片を取り上げる。吹けば飛びそうなそれは、これから動くにあたって何よりも重要なもののようだ。

マーケットを早々に後にして、ホテルへと帰ってきた。部屋は暖かく、あたりは静まり返っている。フロントで鍵を受け取り、部屋の扉を開けた。  同居人が紙片を広げた机にかじりつく。何が何だかさっぱりわからないが、どうやらラテン語らしい。慣れない単語を書き写したためか、クセの強い字は単語と単語のスペースも不揃いで、かなり読みにくいらしい。  ああでもないこうでもない、と唸っている間に、ジャケットをかけ、シャワーを浴び、靴をしまう。そうしてBGM代わりにテレビをつけた。明日も晴れ。ただし、夜には雪が降る可能性も、とのこと。携帯電話で調べれば、十二月は雪は降っても積もることはまれのようだ。海から百キロメートルほど内陸の都市だが、そこまで湿った風にならないものなのだろうか。